2020-03-30

そしてもう誰も死なない





冷戦下のSF的想像力は、いかに高度な観察と狂気とを秘めていようとも、良くも悪くも構造的に練り上げられた思考実験で、あっけにとられるような不条理感がなかったーーと、日本の新型コロナ対策「お魚券」の話を聞いて、ふと思う今日このごろ。外出禁止令も15日目となり、郵便箱を覗くのがささやかな楽しみです。以下は『トイ』Vol.01より。 

ダウンジャケット着て読む人類滅亡譚  干場達矢

連作「正誤表」より。初句7音「ダウンジャケット」のライトさと、句を跨いで鎮座まします「人類滅亡譚」のヘヴィーさとの組み合わせが非常にポップな一句。ふわふわの羽にくるまっているという状況が、何気ない日常詠を装いつつ、まるでシェルターの中にでもいるようなSF的退行感覚をも醸し出しています。

鳥交るころ禁猟区で逢ひませう  〃

連作ラストの句。それまでの雰囲気が一変し、エピローグと思しき明るい景色が広がります。かつて夏目漱石は僕はまだ鳥じゃないと嘆きましたが、この句の作者は近いうちに人を辞して鳥となることを予感し、そしてもう誰も死なない国に遊ぶ約束をしているのかもしれません。