2020-09-13

草の指輪を差し出され





昨日の海は温かかった。幸せな気分で眠り、朝起きて『漢詩の手帖 いつかたこぶねになる日』の予約状況を確認すると、予約開始5日目にして達成率58%となっていた。なんということでしょう。みなさま本当にありがとうございます。ご予約期間はまだまだ続きます。本の詳細はこちらで読むことができます。

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「僕、これから出版社をつくります。つきましてはあなたに本一冊分の原稿を書いてほしい。そしてその原稿でクラウドファンディングを試みたい  書いてくれますか?」

こんな申し出を素粒社のKさんから受けたのは2019年12月のこと。最初は面食らいました。しかもなぜクラファンを? するとKさんは「せっかく本が売れても版元にお金が入ってこない現行の経済システムを打開する策として、予約直販を思いついた」と言います。

Kさんいわく、現状取次会社を通して本を売る場合、新規の出版社の取引条件は新刊委託で6ヵ月後払い・支払い30%保留などの厳しい条件が課せられるそうです。加えて返本もばかになりません。これは聞くだに恐ろしい話で、このシステムは出版の志を抱く者の足を業界から遠のかせ、また折からのコロナ禍も重なって、業界はますます先細りになるのではないかと危惧されます。

わたしは数日間悩み、最終的に【クラウドファンディングとしての、本の予約注文】という着想には「予約注文」という昔からある仕組みの内実を根底から変革する契機が潜んでいる、との考えに辿りつきました。売り上げが即利益となり、また返本の心配もいらない【書店との予約販売】【読者との予約販売】といった新たな流通経路を育て上げ、それらを【取次を介した販売】と比べて遜色のないものとして確立することは、本にたずさわる者たちへ、小回りの利く一つのビジネスモデルを提案することになるだろう、と思ったのです。

そんなわけで、私は素粒社を応援する最初の一人になろうと決め、クラウドファンディングとしての予約販売を受け入れたのでした。

で、ですね、いま「素粒社」などと書いていますが、この提案を受けた昨年末は、出版社がこの世に存在しないどころか社名も未定だったんですよね。ほんと、Kさんの思い以外は、なんにもなかった。だだっぴろい野原で草を編んだ指輪を差し出されて、いきなりプロポースされたようなものです。