2016-11-02

死を合わせる




わたしが武の道をさまようことになった最大の原因は『拳児』を読んだことなのですが、『拳児』の作画を担当した藤原芳秀には『コンデ・コマ』という漫画もあって、これは「死合」を求めて地球上を転戦した男・前田光世(グレイシー柔術の祖)が主人公なんです。「死合」というのは命を賭けた闘いのこと。講道館柔道の創始者である嘉納治五郎が技を試し合うことを意味する「試合」に改字してしまうまでは、こう綴っていたみたいですね。

さていきなり話は変わって、さいきん飯島章友さんの歌に

〈戦争の放棄〉を守るわたくしは幸せの字を「死合せ」と書く

というのがあるのを知りました。ちなみにわたしも

ぬつ殺しあつて死合はせ委員会

という句を書いているんですけど、この〈しあわせ〉を〈死合せ〉と書く作法ってほとんど目にしないのでなんだか嬉しいです。ふいに〈しあわせ〉という言葉を耳にすると、自分が死と紙一重の場所に存在することをかえって意識してしまうことってありますよね。〈しあわせ〉という言葉自体も、どこか鋭い、刃の擦れたような音をしていますし。たぶん、だから。