前略の門(かど)をくぐりて歩むどち語らひながら草草(さうさう)の野へ 小池純代
連作「手紙について」より。
スタートからゴールに至る言葉の流れに「うーん」とうなってしまう。「門をくぐる」という演出が、ひょいと身軽な出立を感じさせる「前略」。「語らひながら」の「ながら」には、これが四句に位置しているせいで、時を忘れていつまでも会話を楽しんでいる様子が滲み出ているし、結句ですっと「野」へ出てしまう展開も美しい。
それにしても、この「草草の野」という言葉を見るたび、とても幸福な気分になるのはなぜだろう? この野に出てしまったら最後、もうお別れなのに。
いずれにせよ、気の合う人とのお別れは、こういった、ひろびろとした場所でしたい。しばしのお別れをぐっと我慢して、すっきりと、涼しい感じでしたい。そして、別になんでもなかったような顔をして、なるべく早く、また会いたい。