2017-09-06

ここにコップがあると思え



哲学系アイテムとしてのコップは、シンプルな、匿名性の高いものだと嬉しい。

近現代の哲学にコップの比喩が多いのは、西洋におけるカフェ文化と議論との強い結びつきに由来する(たしか、そうだったはず。違ったら、ごめんなさい)。カフェは市民がさまざまな刊行物を読んだり、この世界の在り方について意見を交したりする場所。で、そのとき彼らの思考実験の道具として頻繁に引き合いに出されたのが、目の前にあるコップだった。

夏暁のここにコップがあると思へ  岡野泰輔

このコップにもまた実存主義的な芳香が漂っている。夏暁の瑞々しさによって命の誕生の気配を演出しつつ、モノが存在することの奇蹟を哲学的言説と絡めあう手つきはとても鮮やか。

掲句が収録されている『なめらかな世界の肉』というメルロ=ポンティ由来の書名も、岡野さんによく似合っていて、チャーミング。

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