2019-03-09

苔と恋 おまけ



先日「苔と恋」について書きましたが、もういっこ苔の歌を。

びろうどの布団と見えてもえきなる苔を筵と誰か言ひけむ
石田未得

石田未得(1587-1669)は俳人・狂歌師・江戸日本橋の両替商。松永貞徳の門人です。びろうどの布団、という表現がツボります。

この人の『吾吟我集』は、ごぎんわがしゅう、つまり「古今和歌集」のパロディ本です。狂歌史上初の家集でもあり、部立ては四季、賀、恋、世話、雑、廻文。吉岡生夫氏のブログから少し引用します。

めにみえぬ物ともいはし草木のうこくは風のかたちならすや
ふくろふの声よりほほんほんのりと月の桂の木すゑ明けゆく
夕がほの花に扇をあてぬるはたそがれ時の垣のぞきかな
かれ木さへ花さくちかひあるなれば観音草の秋は尤も
いつまでかせんなき恋を信濃なるあさま夕さま燃ゆる思ひそ

4首目の〈尤も〉がいいなあ。花図鑑によると、観音草(吉祥草)は常には花をつけず、吉事がある時にのみ花がひらくとの俗信があったようです。