2019-03-22

すっきりとぼんやりのアウフヘーベン



©Yoko Arimoto, via Lmaga.jp


田中裕明の句に感じる音楽と沈黙は、有元利夫の絵のそれにちょっと似ている。

日脚伸ぶ重い元素と軽い元素  田中裕明

この句からは有元の「室内楽」を思い出す。リコーダーの似合う代赭色の室内で、ピタゴラス派よろしく音の元素とたわむれる情景などを。

もちろん掲句から、裕明が働いていた村田製作所の実験室を思い浮かべてもかまいません。ただこの人にはかなり独特な写生フィルターが存在していて、何を詠んでも彼らしく濾過される。で、その結果書かれたものの一部に有元との重なりがあるなと思ったわけです。ちなみに、二人に重なると私が思うのはこんなところ。

A.簡素で典雅。
B.音楽に溢れつつ寡黙。
C.柔らかな恍惚。
D.堂々たる風格の軽さ。
E.奥ゆかしくも奇抜。
F.〈現在〉の剥落。
G.素材の並列(素材間に関連がない)。
H.時間の久しさ。
I.西洋への東洋の注入
J.古典愛好。

まだあるけれど、いつかまた気が向いたら書きます。ちなみに「素材の並列」に有元が非常にこだわっていたことは有名ですが、これが裕明の特徴でもある話は四ッ谷龍『田中裕明の思い出』に出てきます。「西洋への東洋の注入」も同様。

さしあたり以上をまとめますと、この2人は鑑賞者を澄明な「感覚」にしつつ、同時にその「意識」をあいまいな、反自明性・反合理性へと導いてゆくというわけでした。すっきりとぼんやりのアウフヘーベン。で、その先にある楽園。

●関連 田中裕明とお酒