2019-03-12

春の夜の道具たち




お伽草子『調度歌合』を読む。

貴人の屋敷に仕えている主人公が、貴人の留守の夜にぐっすり眠ってていて、ふと物音に目ざめると、室内の調度品がわいわい歌合をしていました、という変な物語です。登場する調度品は、灯台・炭櫃・台の竿・屏風・高坏・茶臼・机・脇息・銚子・水瓶・碁盤・長持・伏籠・塵取・杉櫃・葛籠・下沓・裏無し・大壺(おまる)・御樋台(おまるを使用する際の足乗せ台)の20種。この20種が屋敷の中でもっとも学のある道具類(おまるが!)らしく、春の夜の退屈しのぎに恋の歌合をしていたのでした。
一番 恋
左  とうだい(ともしびの台)
知らせばや来る宵ごとにともしびの明石の浦に燃えわたるとも

右  すびつ(炭火鉢)
埋火の下に焦がるる甲斐もなく塵灰とのみ立つ浮名かな

こんな風に、道具がじぶんのことを詠み込みながら戦うんです。風流すぎて笑えます。ちなみに上の対戦は、柿本人麻呂の歌〈ともしびの明石大門(あかしおほと)に入らむ日や漕ぎ別れなむ家のあたり見ず〉を詠み込んだ左のとうだいが勝ちました。夜が明けて、道具が静まり返ったところで主人公も一首。

鶯も蛙も歌を詠むなれば声なきものの声もありけり

こちらは古今和歌集序「花に鳴く鶯、水に住む蛙の声を聞けば、生きとし生けるもの、いづれか歌を詠まざりける」のもじり。歌合の様子はこちらで全首読めます。三浦億人氏の解説付き。