2016-08-21

村の俳人



隣町へ行ったとき、ショーウインドウがいい感じの本屋の前を通りかかったので、暇つぶしに入ってみると、2冊の上品な句集があった。お店のご主人に値段を尋ねてみたところ、どちらも8ユーロですとの返答。うーん。ちょっと高い。わたしはありがとうございますと礼を言い、本を棚へ戻そうとした。するとご主人が「高い?」と単刀直入に訊いてきた。

こういう時、どうしますか? 率直に打ち明けるべきかどうか一瞬迷いますよね? でも横にいた夫に「はっきり答えなよ」と促されたので「はい。ちょっと私には…」と伝えると、お店のご主人は「じゃあ2冊で10ユーロでいいわ。実はその作者、去年亡くなったの。だから定価で売っても、もう儲け分を渡しに行けないのよね」と言った。

「ここ、出版社もやってるんですか?」
「そうよ。その俳人は隣村に住んでいて、去年83歳で亡くなったの」
「そうですか…」

こんな話を聞いてしまったらもう買わないわけにいかない。それで家に持ち帰ったのが写真の本。細長い紙は、ご主人が「これつくってみたの。素敵でしょ?」と、くれた栞である。



作者の名はピエール・コンスタンタン。「音楽」と書かれた方が『光の…調べにのって』、そして「俳句」と書かれた方が『語れよ、風よ…』というタイトル。作者の心の響きがそのままタイトルとなったようだ。開いてみると作者の描いたスケッチも載っていた。


こんな異国の森の中の村にひとりの俳人が住んでいた。またもし運命がそれを許したならば、語りかけることだってできた。そう考えるととても不思議な気持ち。死んでいたのに、なぜか出会った気持ち。遠い場所で。

わたしは歩く
ある夏の夕暮れを
消えのこる…暑さを

ピエール・コンスタンタン