2016-08-14

YOUNG YAKUZA と熊谷正敏




少年マンガ『拳児』に出てくる武術家はすべて実在の人物だ。名前をもじってはいるものの多くの場合一字のみ。しかも姿形をデフォルメせずそのまま描いているので、季刊『武術』などを読んでいれば全員の正体をすんなり割り出せるようになっている。

もっとも主人公の少年を筆頭にストーリーの中心人物はフィクションである(でないと問題が生じる)。それでも主人公の少年に八極拳を教える祖父の顔が倉田保昭だったりと、なにかしらの遊びが仕込まれていた。

当時わたしが知りたかったのは「熊谷組」なるテキ屋を仕切る若頭のモデル。熊谷の名は珍しくない上、一字もじっている可能性もある。そのためずっと分からずじまいだったのが、とうとうある日、碑文谷一家熊谷組の熊谷正敏だと気がついた。

きっかけはジャン=ピエール・リモザン監督の『ヤング・ヤクザ』を観たこと(マンガでは本人からオーラを抜いて、その顔つきだけを借用したようだ)。一人の少年が熊谷組に入り、規律を守れず脱落してゆくまでを描いたこのドキュメンタリー映画で、熊谷正敏はリモザン監督と共にカンヌ映画祭のレッド・カーペットを歩いた。

本編中、熊谷その人以外で印象に残ったのは、ヤクザの少年たちが水浴びをするシーン。まだヤクザになりたての子は刺青も入れはじめたばかり、そのため文様があちこち中途半端で汚い。そのあまりにできそこないの刺青を背負った子供たちの姿が無性に切なく、それでいて無造作に浮き出たその絵柄が大人になりかけの鳥のようにもみえ、どことなく愛らしくもあったことを覚えている。