2016-08-18

謎彦、あるいはハイパーテキストの銃撃戦





謎彦がブログ「ジャポン玉」をいっとき再開していた(そしてたちまち飽きた)ようだ。俳句、川柳、連句、短歌、漢詩、なんでもこなしてしまうほんとうに謎の人、謎彦。

謎彦といえば、何よりもまず歌葉新人賞の最終候補作となった「幻 ~Do Minamoto Yourself~」。これは911の暗雲に包まれるニューヨークに住む若き日本人学者が、自我を誇大妄想的に駆使することによって(この主人公、作中では帝の胤「源融」と自称する)、仕事や恋愛などみずからを取り巻く状況とアクロバティックに対峙するさまを描いた、ものすごい連作だった。

 聞こえるか、打ち鳴らされる進軍歌が——
空を飛ぶ まろが飛ぶ 雲をつきぬけ正一位
火を噴いて 闇を裂き スーパー貴族に成りあがる
O-TO-DO! OTODOがMIKADOを抱いたまま
O-TO-DO! OTENMONで待つ
これは戰爭である。

牛は死にますか牛車は死にますかせめてあの大臣(おとど)はどうですか

ジュリー「TOKIO」ないしカブキロックス「OEDO」をベースとした詞書に、さだまさし「防人の歌」を本歌取りした一首を添えて。父である天皇を利用した主人公の暗躍ぶりが恐ろしい、たいへん政治色豊かなコクのある歌。


これは「みなもとの○○○とはしるあたり、ここNYより一寸楽しい」という歌。○○○の部分は、好きな語を入れてご鑑賞下さいということだろう。漢字の選択にはどういう意図があるのかしら。無知なのでわからない。わからないと言えば、次の作品も一人で読んでいたら恐らくわからないままだった。

 Hey, come on, come on....
わが父祖の徽章であつて、わいせつなものをいくつも描いたのではない!

この詞書、家紋(菊の紋章)と英語圏の女性の喘ぎ声との掛詞らしい。あはは。ネット時代って本当に便利ですね。

謎彦の素敵なところは全然ナイーヴじゃないところ。青臭い実験性は読んでいて非常につらいものだが、謎彦には若いころからそれがない。

それにしても歌葉新人賞というのは空前絶後のお祭りだったんだなあ、と今もってつくづく思う。なにしろ謎彦に限らず、さまざまな個性を纏ったハイパーテキスト性の強烈な作品が、まるで銃撃戦みたいにばんばん候補にあがっていたのだから。正直、この賞の光景に毒気を抜かれたせいで自分は短歌を書こうと思わなかったのだ。

そつとそつと舌とガーゼでほりおこすミナモトロプス・クモガクレンシス  謎彦