わたしは謎彦が好きだったものの、俳句や川柳に興味をもつ機会にめぐまれず、彼の俳句を読んだこともつい最近までなかった。で、今回はやっとその俳句。ただし575調ではなく594調の演奏形式である。下の連作は句数が多かったので、リミックス気分でセレクトしてみた。
「五九四」調のための小カンタータ(抄) 謎彦
君子とはあやふきに愛さるる(こなゆき)
道を説く君を繰りたたねて(天の火)
炎上のかゆみにたへかねる(二の丸)
ナンネルルルとヴォルフガンゲルルルルの(六道)
病む夢を枯野でうけとめる(てぬぐひ)
東風吹かば雅楽師といさかふ(カフェイン)
赤いくつ履いてた女の子(てゆーか)
この人ならではの〈愛と修羅〉といった感じ。ここまでくっきりした個性をもっている人は本当に稀だと思う。さてこれをどう楽しむかというと、謎彦本人がどう感じるかわからないが、やはり先日の「対位法練習曲」と同じく紀野恵の作品と併せて読んでみたい。だって、こうやってふたつを並べると、まるで生き別れになった異界の姉弟(ナンネルとヴォルフガング?)みたいなんですもの。
ま 紀野恵
つゆの雨知らぬまに忘れゐし人は(ふあん)ファゴット吹きでありしよ
つかのまの月の光に漁られ(あいよ)滅んでゆくつみとがも
ぎんいろのペットボトルが選みゆく(ふかひせい)よるの波のまの道
けしのはなもやう壁紙炎え立つて(しふねし)あかずのまのゆふぐる
使ひ魔をつね先立ててまつすぐに(きぐ)あゆむかなはららく茨