2016-09-18

花影町から東雲町へ





京都に住んでいた頃は7度引っ越しをして、最後に住みついたのは紫野という場所だった。最近はこちらのサイトで知った西橋美保の短歌がとても気に入っている。

夢前の川面に映りしみづからの影に触れつつ消えてゆく雪
春の雨満員のバスはめぐりつつ花影町から東雲町へ
何を見てわれは病みしか花のころ鷹匠町の眼科に通ふ
お蜜柑を買ひに出でしが紺屋町あたりで日は暮れ雪に降られる

夢前川(ゆめさきがわ)、花影町、東雲町、鷹匠町、紺屋町。これらはすべて姫路市に実在する地名。こうやって並べるととても魅力的である。

当地には美しいばかりでなく変わった地名も多いようだ。古二階町(こにかいまち)、橋之町(はしのまち)、神種(このくさ)、書写台(しょしゃだい)、恵美酒町(えびすまち)などなど、こんな字面を詠み込んだ連作をつくったらとても楽しそう。

それにしても  なんて良い歌なのだろう。この世に生きて在ることのさびしさがそっと胸に迫る。技巧派なのに、そうは感じさせないところも嬉しい。

西橋美保は「短歌人」所属。ここは永井陽子を筆頭に自分好みの歌人が多い結社。

ストローで顔の映つた水を吸ひそのまま顔ごと吸ひ込んでしまふ  西橋美保